秋吉台のカルスト地形


1 カルスト地形とは
 
 カルストの用語の語源はpre-indoeuropeanにさかのぼるとされている.karraは礫の意味でスロベニア北西部でkrasという地方名に変化し,オーストリア・ハンガリー帝国のもと,19世紀中頃に地方名krasをkarst(カルスト)として引用し,地形や地質学用語として使用しはじめた・その後カルストの用語が国際的に用いられ,溶食による地表と地下の地形と水文学的に特色のある現象を含めて,これをカルストと呼ぶようになった.ではカルスト地形とはどんな所なのだろうか.炭酸塩岩の分布する地域においては,気候,地質構造,岩質の差は在ってもなお,二酸化炭素の加わった雨水や土壌水によって溶食された地形が,地表および地下に見られる.地表面では溶食により凹凸に富んだ地形が形成され,地中に流入した地下水の溶食によって形成された洞窟内では炭酸カルシウムの再結晶によって鍾乳石が形成される.これらの一連の地表と地下のシステムをカルスト化作用と呼ぶ.
 水に溶解しやすい岩石から溶食によって生ずる地形をカルスト地形(karst topography)と言う.カルスト地形の特徴は,地表においてはカレン(karren),ドリーネ(doline),ウバーレ(uvale),ポリエ(polije)など岩石表面に凹凸や窪地地形を生じている.また,地表に河流がほとんどなく,吸い込み穴を通して地下水流となる.そして地下には洞窟が形成される.
 カルスト地形は石灰岩のみに形成されるわけではなく,花崗岩や,石灰質砂岩,玄武岩,氷等にも形成される.これらに形成された地形は,Pseudokarst(擬似カルスト)という.


カルスト地形

 カレン (karren)

 石灰岩のような可溶性の岩石において,雨水や地表水,地下水などの溶食作用によって,表面に形成されるさまざまの溝状の形態を総称してカレンと言う.日本ではしばしば露岩そのものをさしてカレンと言ったりする場合があるが,間違いである.

Rillenkarren :水の溶食により、鋭い峰の間が約20mmの幅の溝を持つもの.水の上(水中ではない)での溶食で形成される.

Rundkarren :大きな溝.200mm程度の幅で、丸みを帯びた断面をもつ.有機物や土壌の被覆下で形成される.

Rinnenkarren :大きな溝.200mm程度の幅を持つ.丸みをおびた凹地と、鋭いエッジを持つ.

Microkarren :とても小さな平行もしくはランダムな溝.

Kluftkarren :溶食されて開いた節理.

Spitzkarren :ピナクル・カルストに見られるものよりも小さな、ピナクル(石灰岩柱)として、もしくはスパイク状にとけ残ったもの.

Trittekarren :水平か、階段状の溶食面(ベベル(bevel)).

 カレンフェルト (karrenfeld)
 カレンが形成された露岩が多く分布する石灰岩斜面あるいは台地の原野をカレンフェルトという.
 ドリーネ (doline)
 カルスト地形に見られる小規模の窪地のことをいう.石灰岩の溶食によってできるものを溶食ドリーネ,さらに溶食が進んで底部が落下して吸い込み穴が生じたものを陥没ドリーネ(Subsidence doline)と呼ぶ.ただし,土壌の被覆が流されているものは,Suffosion dolineと記載される方が良いとされる.
 ウバーレ (uvale)
 隣接するドリーネが,溶食の進行や地下流路部の陥没により形成された不定形の窪地形.ウバーレの底にはかつてのドリーネに対応する複数の吸い込み穴が存在する.クロアチア,セルビア,ブルガリアに起源をもつ用語であるが,現在はほとんど使われない.そもそもはドリーネからポリエへと地形が発達する際の中間のものをさしていたらしい.
 ポリエ (polije)
 広大な炭酸塩岩の地域で溶食作用によってできた,長軸が数10kmに及ぶ平野となる窪地をいう.
 吸い込み穴 (ポノール ponor)
 地表水が吸い込まれて地下水系に入る入り口を指す.ドリーネの底やポリエの末端で地表水が流入する場所に分布する.シンクホールと同義.水を吸い込んでいる場合には,Swallow holeと呼ぶ場合があるが,ドリーネなどの底にあるものを指すらしい.




2 秋吉台のカルスト地形

ドリーネ

 秋吉台には,ドリーネが数多く見られ,最も特徴的なカルスト地形となっている.ドリーネの密度が最も多いのは若竹山から長者ヶ森にかけての馬コロビ台である.
ウバーレ
 秋吉台の有名なウバーレは,出来水ウバーレ(出来水の湧水が有名.黒岩林道を登って行ったところ),江原ウバーレ(鷹ヶ穴や竪穴の多い三ヶ台の近く)などがある.
ポリエ
 秋吉では嘉万ポリエが石灰岩台地に囲まれた典型的なポリエであるが,他の多くのものは縁辺ポリエである.広谷ポリエ(秋芳洞の洞口があるところ),沼ポリエ(白魚洞があるところ)などが有名.
ポノール
 大正洞の入口近くにある犬ヶ森ポノールが有名.色素追跡によって,龍元洞に流れ出ていることが確認されている.

 
コラム 他地域のカルスト地形
 石灰岩に形成されるカルスト地形でも,熱帯カルスト,氷河カルスト,氷雪カルストなどには,秋吉台に見られないような形態がある.

コックピット
 星型をした深い窪地で,底が平坦ではないもの.熱帯地域に発達する円錐カルスト地域に形成される.

タワーカルスト
 熱帯カルストの一種であり,平野面から突出して急傾斜をなし,塔状にそびえている石灰岩の残丘群をいう.

ピナクル
 炭酸塩岩が雨水によって溶食を受け,その結果,溶食窪地が形成される.そしてカレンが形成され,稜線の切り立った露岩がそそり立つものをいう.

ライムストーンペイブメント
 氷期に氷河が発達した地域に形成される.石灰岩が氷食を受け,表面が平坦になったもの.遠くから見ると舗装された道路のように見える.

シンジェネティックカルスト
aeolianitesのような,若く,多孔質な岩石化していない炭酸塩岩に発達したカルスト地形.

モゴーテ
発達の悪いキューバのタワーカルストで,急な崖を持った円錐状の丘,もしくはタワーのこと.

セノート
垂直に近い壁面を持った陥没ドリーネで,底が地域の地下水面である湖となっているもの.語源は,メキシコのユカタンの低カルスト大地にある多くのセノートであるが,フロリダや他地域にある水没したドリーネに対して使われている.たぶん,もっとも有名なセノートは聖なる泉であるユカタンのチチェン・イツァ(Chichen Itza)であろう.チェチェン・イツァは垂直な壁面を持ち,60mの直径をもつ.深さは30mでその半分は水で満たされている.

ブルーホール
カルストの湧水を湧き出すプールで,バハマやフロリダで多く認められる.多くは100m以上の直径で,いくつかは100mの深さを持つ.内部は洞窟空間が水平に広がり,そこにある鍾乳石などから,洞窟が,更新世の海水準が低い時,に形成されていたことが推察されている.それらは現在,特に塩水と淡水の境界や,つながった穴の間の強い潮汐流など,海の溶食によって変形される.


  
コラム パレオカルスト

古カルスト.現在の石灰岩の中に,過去のカルスト地形の証拠が残されているもの.例えば洞窟があるし,地表の土壌などもあるかも知れない.パレオカルストはほとんどの炭酸塩岩の中に,さまざまなスケールで認められる.希な例では,それらは堆積後に再び地表に現れ,削剥を受ける.