石灰岩の溶食


 1 溶食とは?
 カルストを形成する岩石の溶解作用と侵食作用をあわせて溶食という.ここでは石灰岩の溶食作用について説明する.
 石灰岩が溶食を受けるためには,主成分である方解石(炭酸カルシウム CaCO3)が溶ける状態にならなければならない.純水における方解石の溶解度は水温25℃で13mg/l程度だが,水に二酸化炭素が溶け込むことにより方解石の溶解度は増し,よく溶けるようになる.野外の水には必ず二酸化炭素が溶けているので,石灰岩は水に溶けるのである.
 二酸化炭素を溶かした水に,どれくらいまで炭酸カルシウムが溶けるか(溶解度)には,
 ・二酸化炭素濃度
 ・水温
 ・溶液のpH(水素イオン指数.0から7までが酸性,7から14までがアルカリ性を示す指数である)
 以上の点が関係する.pHが低くなり,二酸化炭素濃度が高くなるほど,炭酸カルシウムを多く溶かすことができる.また,水温が低くなればなるほど溶解度は増す.
 炭酸カルシウムは水に溶けるとカルシウムイオンと炭酸イオンになる.
 
CaCO3(固体)←→Ca2++CO32‐・・・・(1)

 土中や水中で気体としてのCO2が水のなかに混入すると次のような反応を起こす.
 
CO2+H2O←→H2CO3・・・・(2)
H2CO3←→H++HCO3-・・・・(3)

(1)で生成した炭酸イオンと(3)で生成した水素イオンが結合して炭酸水素イオンを形成する.

 H++CO32-←→HCO3-・・・・(4)

 (4)式が右へ進行したために減少した,炭酸イオンと水素イオンを供給するために,(1)及び(3)式で示される平衡反応が右へ進み,炭酸カルシウムの溶解が起こる.
 二酸化炭素は,雨に含まれているものだけではない.土壌中でも二酸化炭素が生産され,濃度が高くなっている.土壌中の二酸化炭素の生産には,

 1.バクテリアなどの微生物の活動
 2.植物由来のリター,腐植,動物蛋白質の分解による二酸化炭素の発生
 3.植物根の呼吸

以上のものが原因である.



 2 混合溶食と冷却溶食

 炭酸カルシウムで飽和しているが溶存CO2濃度の異なる水(例えば,CO2濃度の低い地表において炭酸カルシウムで飽和した水と,濃度の高い土壌中で飽和した水)が混合すると,この水はさらに炭酸カルシウムを溶解できるようになる.これが混合溶食である.
 図の曲線A-D-Bは,10℃における溶解が平衡の場合を示している.点Aの溶液と点Bの溶液が2:1の割合で混合した場合,混合溶液は,線A-Bを1:2で分ける点(点c)にくる.点cは平衡曲線の上にあり,混合溶液はまだCaCO3を溶かせる不飽和な状態である.故にこの溶液はCaCO3が溶解平衡に達するまで,さらにCaCO3を溶かすか,あるいはCO2の濃度を減少させることができるのである.
 一方冷却溶食は,空気中のCO2濃度が一定であっても,水温が低下すると,石灰岩の溶解が進行することをいう.これは低温でCO2の水への溶解度が増すことが関与している.
 図はCaCO3とCO2の溶解平衡に及ぼす温度の影響を表したものである.これによると例えば飽和状態でCaCO3の温度が200mg/lであるためには,平衡時においてこの溶液に含まれるべきCO2濃度は10℃では約12mg/l(点A)であるのに対し,25℃では約20.5mg/lとなっている.このことから,同じ量のCaCO3を溶かすのに高温では低温よりも多くのCO2が溶けている必要があることが分かる.また,同量の水に同じ量のCO2が溶けている場合には,その温度が低いものほどより多量のCaCO3を溶かすことができる.これが冷却溶食の原理である.例として,夏季などに地表近くの温度の高い水で,CaCO3が飽和に達していた水が地下で冷却された場合に,この水はさらに石灰岩が溶食する.



 3 その他の溶食

地下深部の水による溶食
 環境によっては地下水に含まれるイオンによって石灰岩が溶食されることがあるとされる.