洞窟の石灰岩溶食地形


1 フレアティック起源

a ポケット Pocket

 洞内の天井や壁に穿たれた,半球状の窪みのことをポケットと言う.大きさ,形,深さなどは様々で,丸みを帯びた窪みの先は行き止まりになっている.ポケットが形成される位置によって,


 1.シーリング・ポケット(天井に生じたポケット)
 2.ウォール・ポケット(洞壁に生じたポケット)
 3.フロアー・ポケット(洞床に生じたポケット)

に分類される.しかし,後のベイドースゾーンへの移行に従い,下方への拡大が増大する為,フロアー・ポケットは侵食されていることが考えられることから,現在の洞床に見られる窪みのほとんどは別の成因から成るポットホールである.また,ポケットの形状によって,単一ポケットと複合ポケットに区別できる.複合ポケットとは,単一ポケットがさらに溶食を受け,いくつものポケットが重なり合ったものである.
 成因は,まず,フレアティックゾーンの地下水の流れの中で,通路の形状により洞壁や洞中央部で流量に差がでる.この為乱流が起こり,天井や壁面に生じた渦流の溶食が起こる.これがポケットの成因とされている.しかし,相当に大きな空洞内にもポケットは見られる例がある.この空洞全体を地下水が満たして,渦流が生ずるには,多大な流量,集水面積が必要である.ポケットの成因は,なお検討が必要であるとされている.
 ポケットと同形のものであるが,節理規制され,その割れ目に沿って窪みが穿たれているものもある.一般にこのタイプのものは深いくぼみになる.

b スポンジワーク Sponge work
 スポンジワークとは,天井部や洞壁に見られる小さな穴がスポンジ状に集まった形態を指す.この小さな穴は,ポケットとは異なり,小穴というより母岩が食い取られたような窪みで,近接した窪みは互いに通じている部分もある.ポケットが集合した形態との違いは,溶食を受けずに残った母岩によって,窪みは互いに通じて複雑なパターンを作っている点である.
 スポンジワークの成因は,フレアティックゾーンにおける差別溶食の結果である.この差別溶食の生ずる原因は,石灰岩中のカルシウムとマグネシウムの割合が部分によっていくらか差がある結果であるとされている.スポンジワークにはアナストモシスにみられるような構造線(節理)は認められない.このことから推定されるのは,石灰岩のわずかな空隙間を満たした地下水によって溶食が進んだのではないかということである.

c パーティション Partition
 洞壁を構成する形態で,母岩によって形成されている柱状や橋状のものの総称をパーティション,もしくはロックスパン(rock span)と言う.その形状によって,


 1.ナチュラルブリッジ(天然橋)natural bridge
 2.ピラー(柱石)pillar
 3.パーティションウォール(仕切り壁)partision wall

などに区別される.ナチュラルブリッジは,しばしば落石(breakdown)やフローストーン(flowstone),トラバーチン(travertin)によって橋状に形成された例があり,間違えやすい.柱石は,石灰岩の柱として観察されるものを指し,二次生成物の石柱ではない.パーティションウォールは,一つの通路に近接して別の通路が一枚の石灰岩の壁によって仕切られている形態を指す.
 パーティションの成因は,溶食に取り残された部分が,ナチュラルブリッジやピラーとして形成された為である.溶解が進んだ部分には節理などの構造線が明瞭に示されている.

d アナストモシスパターン Anastomoses pattern
 アナストモシスパターンは構造面に沿って形成された複数のチューブが迷路状に吻合した形態である.そのチューブの大きさは径が数mmから50cm程度と幅広い.アナストモシスの間に残された母岩の垂下物がペンダントである.
 アナストモシスはフレアティックゾーンにおける空洞化の最も初期の形態の一つとされている.アナストモシスは通路拡大の母体となる.これは,チューブの拡大によって相互がつながり通路となるものである.


e フレアティック・ペンダント Phreatic pendant
 天井から垂れ下がった母岩の突起物.一般には,水平な節理や層理に沿ってアナストモシスパターンが発達し,その下部が崩落したりして,天井に取り残された母岩の溶け残しである.アナストモシスを形成した水平な構造面がペンダントの頂部を連ねる面として残されている.
f ハーフチューブ Half tube
 初期に形成されたチューブの下に空洞ができ,その天井に残ったチューブの上半分のことを言う.溶食管(solutional tube)とも言う.また,完全な円管として残っている場合もある.アナストモシスやフレアティック・ペンダントを構成する溝もハーフチューブである.
g チューブ(ボアーパッセイジ)Tube,Bore passage
 チューブとは,管状の空洞のことである.空洞化の初期の段階では,地下水は構造面(節理や断層)に沿って移動する.フレアティックゾーンの地下水は被圧している為,重力方向に無関係な動きが可能となる.この為,天井部,洞壁,洞床部に均等に溶食作用が働き,空洞化は起こる.通路と呼べるほどの大きさのものをボアーパッセイジと言う.*洞窟のそもそもの発生は,裂罅に沿った溶食が元になるとされている.
h ボックスワーク Box work
 ボックスワークとは,洞壁に発達した鉱物(方解石や石英)の薄い膜が網目状に発達したものである.溶食された母岩から溶け残された脈のこと.


2 エピフレアティック起源 Epiphreatic
 

a 溶食ノッチ Corrosion notch

 停滞する水面のあるプールで,溶食作用によって水面付近に形成されるノッチを溶食ノッチと言う.ほぼ完全に水平でシャープなノッチである.成因は,水中で水の対流が起きると,水素イオンが水面付近に運ばれ,溶食が起きることによる.
 
b フラットポケット Flat pocket
 上端が平坦なフライパン状のポケットのことをフラットポケットと呼ぶ.溶食ノッチと同様に停滞水面における溶食によって出来たと思われる.


3 ベイドース起源 Vadose

a ノッチ Notch

 洞壁に見られる水平な溝をノッチと言う.ノッチの大きさは様々で,大きいものは幅が2mのものもある.ノッチは洞内を流れた河川の痕跡であり,流水による側方への侵食で形成される.よって,ノッチが刻まれた場所は側方拡大が強かった水準である.一般的には高位にあるノッチが古く,幅,深さの大きいもの程,地下川の停滞が安定していたといえる.


b ポットホール Pothole

 洞床に生じた円形の窪みをポットホールと言う.地表の河床に形成されているポットホールと同形のものと,天井や壁の割れ目をつたう落下水によって洞床が穿たれたものとがある.
 前者は洞内の流水によって洞床の節理に差別溶食が働き,弱い箇所が速く溶食される.そこに小石などが入り込み,渦流のため小石が窪みの中を転がって,円形の穴に拡大する.流水のある洞内では普通にみられる.後者は竪穴のテラスなどでよく観察される.
c 竪穴 Vadose shaft

 ドームピット Dome pit

 割れ目にそって地表から水が染み込んで,母岩をドーム状に溶かして行き,竪穴を形成する.この形態の最上部はドーム型で閉じており,一般的に最上部や底では大きなパッセイジのある兆候はない.垂直条痕(Vertical groove)が顕著に発達する.
 インベイジョン竪穴 Invasion pit
 強力な落水と崩落によって空間が形成される竪穴.


d ベイドース・トレンチ Vadose trench

 鍾乳洞内を流れる河川の下方浸食によって,洞床が深く掘り下げられた溝をベイドース・トレンチと言う.現在も流水があって拡大を続けているものもある.
 地下水面の安定期には側方侵食が進み,地下水面が低下する時期には下方侵食が強くなる.従って,ベイドース・トレンチは地下水面が低下している時期の産物である.メアンダートレンチの壁面にはしばしばノッチが段階的に生じており,地下水面の低下が間歇的に行われていたことを物語っている.
 溝が蛇行しているものをメアンダートレンチ(meander trench)と言う.チューブの床が溶食を受け,トレンチができた形態をキーホール・パッセイジ(keyhole passage)と言う.


e スカラップ Scallops
 水流の侵食作用によって生じたえぐり跡を流痕(カレントマーク current mark)と言う.その中で,貝殻状の窪んだえぐり跡をスカラップと呼ぶ.水の流れの中で生じた渦流により洞床が部分的に削られ,窪みが生ずる.洞床や洞壁に規則的に形成されている.それぞれの頂点間の距離は等しく,窪みの傾斜は急斜面と緩斜面の繰り返しである.
 スカラップから過去の水流の方向と流速を知ることができる.水流の方向については,上流側に急斜面の窪みが生ずる.スカラップの形態のうち,長径と流速の間には極めて明瞭な関係があるとされ,長径( l )を

Sauter mean L32=Σli3 / Σli2

と表した場合,形成する地下河川の流速と逆相関があるといわれている.
 ボアーパッセイジには,洞床から天井部までスカラップに覆われているものが多い.これは,ボアーパッセイジがエピフレアティックゾーンに位置するようになった時に刻まれたものと考えられる.

f 水平天井 Flat ceiling
 石灰洞には天井が広い範囲に渡って,ほぼ水平に発達している部屋や通路がある.これを水平天井と呼んでいる.この形態の成因は二つある.地下水面が長期に渡り安定し,側方侵食が強く働いて形成したものがベイドースゾーンで形成されたものである.エピフレアティックゾーンからベイドースゾーンにおいて空洞拡大は下方と側方に強くなり,下方に働いた場合にはベイドース・トレンチなどの形態を残し,側方に働いた場合にはノッチを刻み,さらに側方拡大が進めば水平天井を形成する.他の成因として,水平な節理面に沿って天井が崩落した場合が挙げられる.



g ベイドース・ペンダント Vadose pendants

 ベイドース・ペンダントはフレアティック・ペンダントと同様の,母岩が解け残されてできた垂下物である.地下水が増水により天井部まで浸入し,差別溶食によって生じる.ベイドース・ペンダントには,溶食管の溝が見られず,頂部はそろっておらず,不規則な点が特徴的である.


h カレン Karren

 地表地形のカレンと同じく,水の溶食によってできる様々な形の溝を言う.




4 パラジェネシス Paragenesis

 パラジェネシスとは,洞窟空間発達の過程の一つで,洞床にある堆積物のために下方への削剥が規制された場合,上方に向かって洞窟が発達する場合である.

a ハーフチューブ Half tube

 堆積物と母岩の境界のにできるハーフチューブのことである.フレアティック環境でのハーフチューブは,まずチューブが形成され,それから溶食により形成されるが,パラジェネシスの場合は最初からハーフチューブが形成される.節理がなくても形成される.また堆積物の跡がみられるところもフレアティック起源のものと異なる.



b パラジェネティックトレンチ Paragenetic trench (パラジェネティック・ケイブ:Paragenetic cave)
 一般的に,パラジェネシスによってできたと考えられている洞窟は,キャニオン状の断面形態を示す.その証明は難しいとされているが,下流側に向かって上向きになるノッチなどがその証拠となるとされている.形成過程は,ハーフチューブなどの空間がまずが形成され,堆積物と母岩の間に空間ができる.それから堆積物の下に更に新しい堆積物が流入してきて,空間を狭める.そしてまた堆積物と母岩の間を水が浸透して溶食が起こる.これを繰り返して上方に拡大する.
 
c シーリングチャネル Ceiling channel
 水平な天井と堆積物との境界で形成された上向きの溝をシーリングチャネルと言う.天井に見られる溝一般を指すため,成因と関係しないが,多くのシーリングチャネルはハーフチューブなどと同様な形態である.




d パラジェネシス・ペンダント Paragenetic pendant

 パラジェネティックの溶食形態が形成された際の,母岩の溶け残しの垂下物を言う.ペンダントの下端のすぐ下まで,かつては堆積物で埋まっていたので,下端はよく揃っている.節理や断層などの構造面に支配されていないことが,フレアティックペンダントとの違い.壁面等に見られることが多い.
 

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